2012年5月19日土曜日

ブラインドによるワインテイスティング講座  2012年5月

 
毎月恒例のワイン専門平野弥さん主催のワインブラインドテイスティング講座。今月のテーマは古酒。

  
  
  
Alain Coche-Bizouard Meursault Les Chevalieres 1973(アラン・コシュ・ビズアール ムルソー・レ・シュヴァリエール)
外観は黄色が強く黄金色に輝き照りもある色合い。透明感があってきれい。香りは別室で注がれたグラスを持ってこられたときからブワンと周囲に広がる。リンゴの蜜、リンゴの深いコク、リンゴの種の周囲、黒オリーブのような黒さもあり、熟成を感じさせる。それに穀物、種類でいうとクスクスも入り、洋ナシ、リンゴや洋ナシなどのコンポートもあるいい香り。丸く穏やかでゆったりとした香り。口に含むと柔らかで旨味が多くなり、酸味は穏やか。鼻にりんごの蜜が抜け、舌先と側面に微量な酸味がピリピリとくる。りんごの紅玉を軽くフランベして旨味を閉じ込めた感じの味わい。ショコラもあり、りんご系の酸味は飲み方や時間によって変化し、あるときはキーンと喉に鋭さも少し持ちながら伸びてそのまま持続したり、あるときは地平線から朝靄のように下からふぁーっと立ち昇る。酸味が活きていてとても風味豊か、そして物腰柔らかだが力強さもある。

香りと味わいから品種はシャルドネでブルゴーニュというのはすぐに分かる。熟成した香りや味わいの雰囲気が、最近飲んだ中では例えば1985年と86年のブドウを使ったパスカル・マゼのレゼルヴァに近いのでヴィンテージは1985年としたが1973年だった。多い要素が融合されている度合いは確かにこのムルソーは強く、とても滑らかでゆったりとしているのが印象的。ブドウの質がよく、この時点で樽ともうまい具合に調和していそうと想像できる。

  
  
・Albert Morot Savigny-les-Beaune La Bataillere aux Vergelesses 1er Cru 1991(アルベール・モロー サヴィニー・レ・ボーヌ ラ・バタイエール・オー・ヴェルジュレス)
エッジまでグラデーション。ほんの少しエッジがオレンジ色だが赤に紫が入ったフレッシュさもある色合い。香りは黒オリーブの黒さのあるコク、タバコ、草原に生えた背の低い草とその土を含む香り。黒果実が少しと赤果実、苺をこし器で濾した後のような感じでフレッシュさが少ない。ポプリとも表現できる。黄色い花、石灰質、少し粗さもあり、時間が経つと薬っぽさも香りに出てくる。味はコンポートした果実の甘味で、皮が厚いオレンジや甘夏の風味やニュアンスもある。タンニンは細かく点在してチラホラとある。柔らかい舌触り、精練した黒砂糖が柔らかく旨味として膨らむ。酸味は舌に点在し舌の縁にもいる。少し舌に重みがあり、ゆっくりとその重みが沈み込む。土っぽさがあり骨格が小さくまとまっていて鉄っぽさも少しある。

香りと味わいから品種はピノ・ノワールでブルゴーニュというのはすぐに分かる。ヴィンテージは途中でオープンになり1991年。地域は熟成により穏やかになったと推測して、その小さい骨格からジュヴレ・シャンベルタン、ニュイサン・ジョルジュと予想したが正解はサヴィニー・レ・ボーヌ。土っぽさとニュイサン・ジョルジュよりも骨格が小さいのが特徴。コルクがきれいなのでリコルクして間もないようで、色、香り、味に新しい要素と古い要素が入り込んでいることから考えるとリコルク時に新しいヴィンテージを補充していると思われる。

  
  
  
Alain Coche-Bizouard Meursault 1976(アラン・コシュ・ビズアール ムルソー)
エッジまでもやもやとしたグラデーションでオレンジ色が入った外観。香りは花と果実が薄い量で混じり合い香水のようになっている。ジャコウやグレープフルーツ、黒オリーブの黒さがある熟成感。ドライフラワーや陳皮が香り、たまり醤油のニュアンスもある。時間が経つと丸く甘く香る。口に含むと舌に水のように流れ、タンニンがすごく細かく舌にいる。グラスにある香りほど鼻には香りが強く抜けず、フレッシュな上質な甘味を持ったイチゴがふぁーと柔らかくそよ風のように抜ける。これはとても好きないい香り。フレッシュなイチゴにほんの微量の梅ジソが同居し、イチゴとやや重みのある果実の酸味もグーンと立ち昇る。軽やかだが重みと深みがある。酸味が伸び、渋味があり、旨味が丸く強い。フレッシュで熟成もしていてまとまっている。一体感と丸み、フレッシュな苺が印象的。

フィクサンからボーヌの味わいではないので、それより南側の村だとは想像できる。このアペラシオンは当たらないということだったので、マイナー系でジヴリーと予想したがムルソー。ムルソーの赤は珍しい。地域としては通常ヴォルネイという表記になるが、答えを聞いてみると確かにヴォルネイの土っぽさというよりもムルソーの煌めく酸味と爽快感のニュアンスの方が近く、ムルソーと書かれているこだわりに納得してみたりもする。なお、コルクの上面はカビが付いておりコルク自体は湿っている。このカビ臭はドメーヌのカーヴの匂いと同じそうで、ワインはコルクを通して息をしているのでこの匂いが黒いニュアンスとしてワインに少しある。つまりリコルクはされてないか最低でも最近には行われてないと言え、アルベール・モローのような新旧が混在したような感じではなくこのワインは一体感や融和の度合いが高い。

  
  
 
Alain Coche-Bizouard Pommard Vieilles Vignes 1976(アラン・コシュ・ビズアール ポマール・ヴィエイユ・ヴィーニュ)
エッジまで夕日のオレンジのようなグラデーション。香りはタバコが強く、緑や青をイメージさせるフルーツ、スターフルーツ、シトロンなどコクのあるやや南国系の柑橘果実が香る。また、枝を折ったときの香りや土っぽさもあり、時間が経つと丸く甘い香りが発つ。スワリングするとセメダインのようなグっとくる中核のある香りが発ち、香りをスーっと吸い込むと後半になるほど~グッグーーと力強さが増してくる。キウイをソースとして使ったような何かの料理も感じさせ、この料理には赤い実のスパイスなども入っている。その後半には赤い大きな花びらのフローラルが香り、とてもフラワリー。さらにショコラや精練した黒砂糖、そして少しだけ一般的にムルソー白に言われるぼろ雑巾の香りもある。口に含むと舌には水のように入り、酸味がきた後に、どんどん舌に力強く主張してくる。鼻にもフレッシュなイチゴが抜ける。酸味が豊富でタンニンは感じないぐらいでそれがコクになっている。旨味が多く、球根類、硬い芋やムカゴを蒸かしたり、それを裏ごししたような風味がある。味わいの強さは強く、グンとアタックで立ち上がり、その強さを高い位置で維持したまま、その位置に向かって収れんしていく。骨格は三角形にビシッとして、ほわんほわんとしている。

前者のムルソー赤よりもより複雑でフローラル。草木や花の輪郭がはっきりして色彩豊かで南国を少し思わせるアンリ・ルソーの絵画を想像させる。平野さんの場合には、さらにそれに月明かりが加わる感覚だそう。なお、このコルクもムルソー赤と同様の状態。

  
  
本日のラインナップ。やはりいいワインは要素や世界観があるためテイスティングコメントは多くなる。時間変化もあるので続ければいつまでもコメントを書くことができる。

ここで講座は終了だが、ここから本日の隠れテーマを食事を準備して開催。
いわゆるマリアージュだが生魚類は一般的にワインを合わせるのが難しい。ところが、先日に開催された「鱒の塩漬けとワインの会」で「魚吉水産」さんの魚は鮮度がよく、この新鮮さであれば刺身など魚介類にワインが合うかもしれないというのがお試しの発端。

  
  
  
・魚吉水産 兵庫県赤穂の生牡蠣・天然もの。
弾力と歯応えがあり、噛むとサクっと歯が通る。旨味が豊富で牡蠣の甘味がありミルキー。縁の部分はコリコリした歯応え。松島や広島、宮島などの牡蠣は噛むと汁がじゅわーっと出てきてぷっくらした形を維持せずふにゃーっとなるが、こちらはその断面はスパッと切れて汁も漏れ出てこない。そして口に入った分を噛んでいくと汁や旨味が出てくる。ぷっくらしていて水分が少なく旨味が凝縮していて、オリーブ漬けや燻製して水分を少し抜いたような感じだが当然生。おいしい。赤穂の牡蠣は知らなかった。

ワインと合わせてみる。
・ムルソー白  おいしい。いい。甘味が膨らむ。 ◎
・サヴィニー赤 普通。 △
・ムルソー赤  生臭さが少し出る。 ×
・ポマール赤  ワインの黒い森やコクの部分が強調される。 ×

 レモンをかけた牡蠣。
・ムルソー白  おいしい。レモンなしと同じ ◎
・サヴィニー赤 おいしい。 ○
・ムルソー赤  生臭さい。 ×
・ポマール赤  ワインの黒い森やコクの部分が強調される。レモンなしと同じ。 ×

  
・魚吉水産 和歌山のキスの昆布締め(天然)
キス本来の甘味、旨味、カリっという感覚の適度な歯応え。噛んでいくと旨味がグーンと出てくる。

・ムルソー白  栗の旨味、フレッシュな果実っぽさが出る。おいしい。 ◎
・サヴィニー赤 普通。 △
・ムルソー赤  甘味が出てくる。キウイなどのフルーツが出てくる。 ○
・ポマール赤  ワインの黒さが強調される。 ×

・魚吉水産 三重のマコガレイ(天然)
すごい歯応え。コリコリしこしこ、モチモチして口の中にねっとりする。シャクシャクした歯応えで旨味が出てくる。磯の香りといい、食感といい釣り上げてその場で捌いて食べたときの味わい。

・ムルソー白  栗の旨味、甘味が膨らむ。 ○
・サヴィニー赤 薬っぽさが少し出る。 △×
・ムルソー赤  フレッシュな果実が出て、魚の旨味があとから出てくる。悪さはないが独立している。 △
・ポマール赤  ワインの黒さが膨らむ。 ×


  
・魚吉水産 関さばのしめ鯖(天然)
シャキシャキした歯応えと身が締まった噛み応えで、味わいが高い階調で澄んだ味わい。まさに関さばの味わい。

・ムルソー白  栗の旨味が膨らむ。 ○
・サヴィニー赤 普通。 △
・ムルソー赤  関さばらしさが膨らむ。 △○
・ポマール赤  ワインの黒さが膨らみ、余韻はワインの甘味。 △×

・関さばに調味料を加えた状態(オリーブオイル)
オリーブオイルとの単体では青魚の味わいが立つ。ムルソー白とで青魚の臭みが消えてきれいになる。 ○

・関さばに調味料を加えた状態(醤油)
単体では関さばの旨味が膨らむ。ムルソー赤はワインの良さが出る。○△。ポマール赤は生臭さが出る。×

・魚吉水産 北海道の水タコの桜煮(天然)
熟成したときに出る旨味が強く、タレがみりん系の甘味を持つが明るい味わいでタレの旨味が強い。燻製の風味があり、歯応えがよく、噛むほどに旨味が溢れてくる。歯応えや食感は独特で繊維が沢山あるが断ち切れるような感じで裂けるチーズのような雰囲気。

・ムルソー白  普通。 △
・サヴィニー赤 旨味や熟成の成分が膨らむ。 ◎
・ムルソー赤  タコの旨味が膨らむ。 ○
・ポマール赤  ワインの黒さが主張する。 ×

  
シニフィアン・シニフィエ @世田谷区下馬
オリーブのパンは古酒の風味と黒い香りがある。

・ムルソー白  野菜の味わいが出てくる。おもしろい。 △
・サヴィニー赤 軽やかな味わいになる。フレッシュな野菜の風味が膨らむ。 ○
・ムルソー赤  OK。 △○
・ポマール赤  普通。 △

クロマメは豆の旨味と甘味があり、糖分の旨味と甘味が合わさっている。

・ムルソー白  豆の旨味と甘味が膨らむ。 △○
・サヴィニー赤 豆の甘味が膨らむ。旨味がより膨らむ。 ○△
・ムルソー赤  豆の甘味が膨らむ。旨味がより膨らむ。 ○△
・ポマール赤  上記3つは豆が強調されるが、これだけワインの方が主張される。 ×

  
・平野弥特製たまごサンドイッチ
少し塩味が強めになっているたまごサンド。

・ムルソー白  ワインが先にきて、後でたまごがくる。独立している。 △
・サヴィニー赤 たまごが膨らむ。悪くはない。 △
・ムルソー赤  イーストが膨らみ、すんだ風味が鼻に抜ける。 ○
・ポマール赤  ワインとたまごサンドの両者の特徴が出て、バランスよくまとまる。キュウリの風味が出て、クリーミーな風味。 ◎

  
以前のワイン会でも食べた某所の苺。
やはりおいしく、ワインのニュアンスと同じで余韻まで美しい。フレッシュで柔らかな風味が心地よい。

・ムルソー白  口で合わさった瞬間はダメかという感じになるがその後にバランス取れる。 △
・サヴィニー赤 全然ダメ。エグミが出る。 ×
・ムルソー赤  ワインの苦味が強調される。 ×
・ポマール赤  ワインの苦味がさらに強調される。 ×

  
・「Pain de U」さんの紅茶シフォンケーキ。
アールグレーの香りでとても柔らかくふんわりしている。口に入れると香りがぶわーっと膨らむ。

  
・Paul Giraud Jus de Raisin GAZEIFIE Vendanges Selectionneer 2011(ポールジロー ジュ・ド・レザン・ザセフィ)
薄めの旨味。澄んだリンゴ、紅茶の風味。酸味が少なく甘味が強め。開いていたボトルを見て気になったので少しお試しで飲ませていただいたが酸味が少なくて炭酸がすでに抜けているので甘味の多いジュースになっている。

本日は平野さんを入れて3名という少人数だった。内容はとても充実して熟成したいいワイン、その熟成したワインと鮮魚のお試しもとてもおもしろかった。魚もこれだけ新鮮だと調味せずに刺身の状態などでもワインと合わせることが可能だということが分かった。おそらくこの鮮度が少しでも落ちると臭みが出てしまうと思う。ワインとの相性ははっきりと分かれ、ムルソーの白はかなり広い範囲で相乗効果が得られ、ムルソー赤も適合する幅が広かった。一番ダメだったのはポマール。そのポマールもたまごサンドにはもっともよく合っていたのでポマールはやはり動物性の方がよいのではないかというのが本日推測した結果。
本日もおいしいワイン、料理ご馳走様でした。ワインとの相性は非常に興味深い結果でかなり楽しかった。いつも講座に参加されている方々、皆さんたまたまの欠席で残念でした。鮮魚との相性はワイン会として別途開催されるかもしれませんのでそちらをご期待ください。

ワイン専門平野弥
横浜市都筑区荏田南町4212-1 045-915-6767 13:00-19:00 月火休